2010年2月17日水曜日

浮世渡らば豆腐で渡れ

晩御飯の支度をしようとスーパーに出かけることにした亜子。
勢いよく自転車を廻いで(こいで)、店の中にはいったのはよいが、一郎の誕生日をお祝いしようと考えた献立はなんとも難しい。

こんなメニューを作るために見た料理本には、随分多くのスパイスや香味野菜を使うように書かれている。『まあ、スーパーに行けばなんとかなるか』なんて思って来たものの、やっぱり目の前にあるのは、代わり映えのしない、キャベツ、にんじん、たまねぎ、じゃがいも・・・。

『これじゃあ、何もできないな』なんてこぼしていたら、後ろに近所の居酒屋の大将がいた。
『亜子ちゃん、めずらしいね。スーパーで買い物か。』
亜子はちょっと驚いて、こう言った。
『たまには私だって料理しますよーだ!でもね、材料が揃わないの。。。』

居酒屋の大将は、亜子が持っているメモ書きを手にとって、笑いながらこう言った。
『亜子ちゃんの気持ちはよくわかるけど、これ作るのに全部そろえようと思ったって無理。大事なのは、どういう味や香りになるのかを考えて、それに近いものを使えばいいんだよ。』
といって、メモにある野菜の効能を口にしながら、代わりの材料をかごに入れていってくれた。

次々と代わりの野菜が亜子のかごに入り、居酒屋の大将は、『もう店の準備始めるから、帰るよ!』といってそそくさと帰っていってしまった。

家に戻り、料理本を見ながら、さっき買ってきた野菜をもとにして作った煮込み料理。

帰宅した一郎に、誕生日おめでとうといいながら、出した料理は、どことなく亜子のにおいがした。

浮世渡らば豆腐で渡れ:
外面は生真面目で物事のけじめをつけるとともに、内面は柔軟性を保って事に処するのが賢明な世渡りをするコツだという意味(古事ことわざの辞典 あすとろ出版)